「このExcel、前の担当者が作ったものなんです」
そう言われて開くと、こうなっています。
- シートがいくつもある
- 計算式が長く、どこを参照しているのか追えない
- マクロが入っている
- どこから数字が来ているのか分からない
- 触ったら壊れそう
- 作った本人は、もう辞めている
そして厄介なことに、そのExcelが無いと仕事が止まります。
「Excelだから簡単」とは限りません
Excelは便利です。専用の仕組みを買わなくても、その会社のやり方に合わせて自由に作れます。
その自由さが、あとで効いてきます。
担当者が何年もかけて「ここをこうすると便利」「この数字はここから持ってくる」と少しずつ足していった結果、作った本人にしか分からないものができあがります。
悪意も手抜きもありません。その都度、良かれと思って改良した結果です。
最初にやることは、計算式を追わないことです
開いた瞬間に、複雑な計算式を解読しようとしたくなります。
そこから始めないでください。 何日かかっても終わりませんし、途中で触って壊す危険があります。
最初に確かめるのは、たった1つです。
このExcelを使って、最終的に何を作っているのか。
- 日報
- 月ごとの集計
- 請求書
- 売上の一覧
- 在庫の管理
- 会議に出す資料
出口が分かると、全体の形が見えてきます。 計算式を読むのは、そのあとです。
次に確かめるのは、数字がどこから来ているか
そのExcelに入っている数字が、どこから来ているかを確かめます。
- 人が手で打っている
- 別のExcelから貼り付けている
- 何かのファイルを取り込んでいる
- 別の仕組みから出したものを使っている
ここが、この記事でいちばん大事な確認です。
なぜなら、Excelを直すより、数字の持ってき方を変えたほうが早いことがあるからです。
「Excelを直す」だけが答えではありません
たとえば、こういう作業をしているとします。
毎朝、仕組みから数字を出す → Excelを開く → 別のExcelに貼り付ける → 手で書き写す → 集計する → コメントを書く → メールで送る
この場合、「Excelを使いやすくしましょう」では解決しません。 手間の大半は、Excelの中ではなくその前後にあるからです。
毎日の手間そのものを減らす話は、別の記事に書きました。
→ 毎日のExcelへの転記作業をなくしたいときに考えること
★逆に、Excelのまま残したほうがいい場合があります
ここは、はっきり書いておきます。
何でも仕組みにすればいい、というものではありません。
次のどれかに当てはまるなら、Excelを整理して使い続けるほうが合理的です。
- 使う人が少ない
- 処理する件数が少ない
- 仕事のやり方が、しょっちゅう変わる
- 現場にとって、Excelのほうが手に馴染んでいる
特に3つ目が大事です。やり方が変わり続ける仕事を、きっちりした仕組みにすると、変更のたびに費用と時間がかかります。 Excelなら自分たちで直せます。
ただし、残すなら条件が1つあります。 次の章に書いた5つを、必ず残しておいてください。それをしないと、数年後に「古いパソコンを捨てられない会社」になります(後半の実例に書きました)。
大事なのは、Excelにするか仕組みにするかではありません。その仕事が、無理なく続けられるかどうかです。
引き継げる形にするために、残しておくこと
作り直さない場合でも、次の人に渡せる状態にはしておいてください。
最低限、この5つです。
- 何のためのExcelか(最終的に何を作っているか)
- 元の数字がどこにあるか
- どこに入力するか
- どこを触ってはいけないか
- できあがったものを、誰にどう渡すか
Excelの1枚目に、この5つを文章で書いたシートを足すだけでも構いません。次に困る人が、あなたでなくなります。
「いま動いているから大丈夫」は、少し危ないです
前任者が辞めたあと、そのまま使い続けている会社は多くあります。
いまは動いています。ただ、次のどれかが起きたときに止まることがあります。
- パソコンを入れ替えた
- Officeが新しくなった
- 元の数字の形が変わった
- 担当者が代わった
止まってから調べるのが、いちばん大変です。 仕事が止まっている最中に、誰も中身を知らないものを解読することになります。
動いているうちに、**「これは何をしているものなのか」**だけでも整理しておいてください。
実際にあった例
パッケージのシステムを入れた会社で、こういうことがありました。
導入のとき、Excelがとても得意なご担当者がいらっしゃいました。標準の帳票では足りない部分を、その方が「私が何とかします」と言って、マクロで埋めてくださいました。そのマクロは、とてもよくできていました。 欲しい帳票がきれいに出て、経営層の方まで満足されていました。
数年後、その方は辞めておられました。マクロは、まだ使われていました。
システムの入れ替えで伺ったとき、こう教えていただきました。
パソコンを入れ替えたらExcelの版が上がって、マクロが動かなくなった。だから、動いていた古いパソコンを捨てずに残して、それを使っている。
事務所に、触ってはいけないパソコンが1台あったわけです。
出来が悪ければ、もっと早く捨てられていたはずです。 よくできていて、誰も困らなかったからこそ、数年生き延びて、会社の仕事がその上に乗っていました。
入れ替えのときに、取れる道は3つです
パソコンやシステムの入れ替えで「このExcelが動かない」となったとき、選べるのはこの3つです。
① 同じ出力ができるように作り替えて、いまのExcelを使い続ける
いまのやり方を変えなくて済みます。ただし、作り替える費用がかかります。 そして、その先も同じものを抱え続けることになります。
② 同じような出力ができるものを、新しく作る
古いものは捨てられます。ただし、こちらも費用がかかります。 そして数年後、また同じことが起きる可能性があります。
③ 諦めて、いまの仕組みの標準の形を使う
費用はかかりません。ただし、現場のやり方を変える必要があります。 ここがいちばん大変です。
先ほどの会社は、③を選ばれました。
③は、最初の導入のときに提案されていたことでもありました。当時は受け入れられず、5年後に受け入れられた。その間に挟まっていたのは、担当者一人の負担と、捨てられない古いパソコンです。
どれが正しいという話ではありません。 ただ、③を選ぶことは「負け」ではないということだけ、お伝えしておきたいと思います。現場を変えるのは大変ですが、抱え続けるのも、同じくらい大変です。
ここで止めていい場合
- 何を作っているか分かった
- 数字がどこから来ているか分かった
- 触ってはいけない場所が分かった
- 上の5つを書き残せた
このどれもが済んでいるなら、作り直す必要はありません。 そのまま使ってください。
頼んだほうがいい場合
- 開いても、何をしているのか見当がつかない
- マクロが入っていて、中で何が起きているのか分からない
- 止まると、その日の仕事が止まる
- 調べる時間が取れない
- 作り直すべきかどうかの判断がつかない
最後の項目が、いちばん多い相談です。作り直すかどうかを決めるために、まず中身を知る必要がある——ところがその中身が分からない、という順番の問題です。
いきなり新しい仕組みを作る必要はありません。いまあるものが何をしているのかを確かめるところからで構いません。