「このサービスを導入しませんか」

付き合いのあるIT業者から、そう提案される。説明を聞くと、たしかに便利そうに思える。

ところが、判断ができません。

  • 本当にうちに必要なのか分からない
  • 他と比べていないので、金額が妥当なのかも分からない
  • 専門的な言葉が多くて、話の半分も追えない
  • 導入したあと、誰が面倒を見るのか想像がつかない
  • 断りたい気もするが、断る理由を作れない

最後の一行が、いちばん困るところだと思います。

業者を疑う必要はありません

先に、はっきり書いておきます。

提案されたからといって、その提案が悪いわけではありません。 専門の知識を持っているからこそ、会社に合ったものを勧めてくれることもあります。実際、そういう提案をたくさん見てきました。

問題は別のところにあります。

提案を受ける側に、判断するための材料がないこと。 これだけです。

材料が無いまま「良さそうだから」で契約するのも、材料が無いまま「よく分からないから」で断るのも、どちらも同じくらい危ういことです。前者では要らないものが入り、後者では必要だったものを逃します。

実際にあった例

ある会社の事務所の隅に、見慣れない機器が置いてありました。「セキュリティのために入れた方がいいと言われて、入れました」とのことでした。何をしているものかは、誰も分かりませんでした。

そして、業務システムがたまにエラーになっていました。誰も、その機器と結びつけていませんでした。

入れた業者さんに来てもらい、設定を変えてもらったら、エラーは起きなくなりました。

ここで起きていたのは、認識のずれです。業者さんは「設置した時点で仕事は終わり」、お客様は「入れてもらったのだから、その後も見てもらえる」。どちらも悪くありません。最初のところで、話が合っていなかっただけです。

そしてそのずれは、何かが起きるまで表に出てきません。

だから、後述の「入れたあと、誰が面倒を見るか」を先に聞いておくことが効きます。

「良いサービス」と「うちに合うサービス」は別です

説明で語られるのは、たいてい**「良いサービス」**のほうです。こんな機能がある。こんなことができる。業務が効率化できる。

それ自体は嘘ではありません。

判断するときに要るのは、別の問いです。

うちの会社で、使い続けられるか。

紙でやっている作業を仕組みに変えるとします。便利な機能があっても、

  • 現場の入力する手間が、いまより増える
  • いまの仕事の流れと合わない
  • 操作が難しい
  • 入れたあと、誰も管理できない

このどれかに当てはまると、半年で使われなくなります。 そして費用だけが残ります。

新しい仕組みが根づくかどうかは、機能の良し悪しではなく、いまのやり方との距離で決まります。

材料は、3つ書き出せば作れます

判断の材料は、提案書の中にはありません。あなたの会社の側にあります。

① いま、その仕事を誰がどうやっているか

誰が、何を、どういう順番で、どのくらいの頻度でやっているか。

同じ「請求書を作る」でも、会社によって中身はまったく違います。ここを書き出さないと、提案が合っているかどうかを判断できません。 一般的な「おすすめ」では決まらないのは、このためです。

② 入れたあと、誰が面倒を見るか

ここが、いちばん見落とされます。

導入のときは業者が設定してくれます。ところがそのあと、こういうことが毎月起きます。

  • 社員が入ったので、使えるようにする
  • 辞めたので、止める
  • パスワードが分からなくなった、という問い合わせ
  • 契約の更新
  • 使い方が分からない人への説明

この人が決まっていない提案は、入れたあとに必ず詰まります。 提案書には書かれていないことが多いので、こちらから聞く必要があります。

③ 実際に使う人が、どう思うか

決めるのは経営者や総務でも、毎日触るのは現場です。現場が「いまのほうが早い」と思えば、戻ります。

可能なら、実際に使う人に一度触ってもらってください。無料で試せるものも多くあります。

お金の話は、見積もりが出てからです

提案の段階では、まだ金額の話に深入りしなくて構いません。

見積もりが出てきたら、項目の分け方と、そのまま業者に聞ける質問を別の記事にまとめました。

→ IT業者の見積もりが高いか安いか分からないときの見方

ただし、提案を受けた段階で1つだけ聞いておくと、あとが楽になります。

「この提案で、いまのうちの仕事のどこが変わりますか。逆に、増える手間はありますか」

きちんと答えられる業者は、信用できます。 「増える手間はありません」と即答する相手には、もう一度聞いてください。何かを変えれば、必ずどこかに手間が移ります。それを説明できる人は、こちらの仕事を見ています。

断るときも、理由は要りません

「断る理由が作れない」と思われるかもしれませんが、理由を説明する義務はありません。

それでも何か言いたいときは、これで十分です。

「いまは、先に社内の状況を整理したいので、いったん見送ります」

これは嘘ではありません。 材料が揃っていないのは事実だからです。整理したうえで、やはり必要だと思えば、そのときに頼めます。

ここで止めていい場合

  • 上の質問をして、納得のいく答えが返ってきた
  • 金額が、会社として出せる範囲だった
  • 入れたあとの面倒を見る人が決まった
  • 実際に使う人が、触ってみて「これならいい」と言った

このどれもが満たされているなら、進めて問題ありません。 迷う必要はないと思います。

誰かに間に入ってもらったほうがいい場合

  • 質問をしても、返ってきた答えが理解できなかった
  • 金額が妥当かどうか、比べる相手がいない
  • 提案されたものが、そもそも必要なのか分からない
  • 付き合いが長く、断りにくい
  • 前に一度入れて、使われなくなった経験がある

最後から2つ目は、よく聞きます。長い付き合いがあるほど、断りにくくなります。 そこに第三者が入るだけで、「社内で検討したい」と言いやすくなります。

私は特定の製品を売っていません。売る側ではなく、使う側から見ます。 提案された内容と、いまの仕事の中身をうかがって、何を確かめるべきかを一緒に整理します。

判断できない状態が、いちばん高くつきます

良い提案を断ってしまうのも、要らないものを入れてしまうのも、原因は同じです。

判断する材料が無い。それだけです。

材料は、提案書の中ではなく、あなたの会社の中にあります。 そして、それを書き出す作業に、専門の知識は要りません。